この記事はキーボード #1 Advent Calendar 2019の12/15 の記事です。
https://adventar.org/calendars/4117

はじめに

Polaris旋風のあと、物が届いた訳でもないのにアルミ削り出しケースのキーボードが欲しくなった。
geekhackのGBやmechmarketに良さそうなものが見つからない。
さて、作るかと手を動かし始めたのは今年の9月頃だった。

少し前からNomu30を普段使いしていて、”30%いけるじゃん”と調子に乗っていた私はオーソリニアで3行11列のキーボードの設計を始めていた。
ある程度形になったところで国内やアメリカの工場でケース加工の見積もりをとると1台分ならギリギリ現実的みたいな価格が返ってくる。

「試作を切削で繰り返すのは現実的ではない、不本意だけど3Dプリントで作って本番だけ、いやでもそれだと天キーに間に合わないぞ」
そのタイミングで、遊舎工房から「Big Switch入荷しました」のツイートを目にした。

Big Switchを1キーで使えるケースをテストケースとすれば、加工は体積が33キーよりも小さい分安く済む、
スイッチだけ買ったけどケースがなく持て余してる人たちにいくつかは売れるだろうと目論んだのである。

そのあと、中国でケースを製造してもらうことを決めたのは本当にたまたまで、海外に頼むなら中国でも同じようなものだしと
気まぐれにもらった見積の金額に驚愕して即決した。(この記事とかこの本は読んでいたのだけどさっぱり忘れてました)

即決したとは言葉の綾で、数社からもらった見積もりを眺めて、コミュニケーションした感触をもとに吟味したところに製造を頼んだ。
国内や有名所ではなくて中国のalibabaで見つけた工場での製造を決めたのはもちろん金額的な面が一番で
そういう価格帯の工場であればどこもクオリティのコントロールが難しいのは想像に難くない。
自分の考えどおりに製造してもらうためのコミュニケーション方法や注意したいところについて共有したいと思う。

つくったもの

[NovelKeys x kailh] the BIG switchのかっこいいケース+基板を設計して製造した。
設計や製造の大まかな流れは以下のツイートスレッドを参照してもらいたい。


とは言ったものの、ここにある回路図は没となってATmega32U4を使ったものを製造していたり、
ケースについてもTwitter上のモデルに修正を重ねた上で最終的な発注をしている。
ここでは細かい設計についての説明は省くが、最終的には以下のような仕様とした。

  • デザインモチーフはテーブルランプ、工業部品
  • アルミ削り出しケース
  • もちろんキーボードとしても使える
  • ATmega32U4
  • USB Type-Cで最大1A程度消費

基板

kicadで設計してJLCPCBへ発注。
最近始まったSMTサービス(PCBAというとすごい勢いで否定される)を利用してUSBコネクタとスイッチ以外の部品を実装してもらった。
製造前にLEDの方向についてごちゃごちゃしたメールをしたせいか、その部分にミスがあり手作業で修正する羽目に。
(後ほどクレームをいれたところ、工場への指示をミスったよと連絡がありました)
特にピッチが厳しい部品もなく、実装品質は良い感じ。

動作確認中、最大輝度で全てを点灯させ続けると、WS2812Bが暴走しコントロールできなくなることが判明する。
適当に実験をしながらソフトウェアで制限をかけた。

USB Type-C Currentに対応するため、Type-Cポートと接続されているか確認できるように設計したがUSB 3.0なら何もせずに1.5Aぐらい引っ張れると知ってソフトウェア側での実装は省いた。

ケース

設計

ケースの設計は全て3DCAD(fusion360)上で行った。
kicadから出力した基板と部品の3Dモデルを読み込んで内部構造の設計の元としている。
一度も3Dプリントや切削加工で試作することなく完全デジタルの一発勝負をしてしまったところは反省している。
(結果として時間と費用の節約になったのだが、最低でも一度は3Dプリントで確認すべきだったかもしれない。)

デザイン的な部分ではとにかくエッジを丸めない、工業製品っぽい粗い表面処理で、一般的な量産品にはないデザイナーズ家具っぽさを目指した。

見積もり・製造で必要ファイルと仕様

・素材と表面処理

素材と表面処理について予め考えておく。
アルミにも種類があったり、アルマイト処理前の磨き工程だったり、色だったり。

・3Dモデル

実寸で作られた3Dモデル(STEP形式)を基準に作って貰える場所を探した。
普通は以下の図面を基準にして製造されるはずだけど、最近の工作機械とCAMだとうんぬん。

・図面

製図された図面が必要だ。これを用意するのがとにかく難しい。図面の書き方ひとつで使用できない部品が出来上がってしまう。
私はある程度の知識があったり、教えてもらえたりしたためなんとなく書ける。fusion360で3Dモデルを元にして作った。
今回の場合は3Dモデルを基準にして作ってもらえそうなところを探したので、意図通りであればネジを切る穴の場所だけが参照されているはず。

3Dモデルで自動見積もり

(以下、具体的な金額を出しづらいので各自適当なモデルで試してみてください)

以下のような3Dモデルをアップロードして見積もりが取れる加工業者がある。
プロトラブズ
3Dhubs
納得が行く範疇に収まるが、ある程度まとまった金額が必要。
どちらも人の手を介さないタイプの見積もりなので何度も調整して相場を掴むのには便利だ。

alibabaで見積もり

中国の工場へ見積もりをとるにあたってalibabaを利用した。
基本的にB2Bのためのサイトだが頼めば少数でも販売/製造してくれることが多い。
RFQを使って一気に数社から見積もりをとるのが便利らしい。

私の場合、RFQを利用しようとフォームを埋めたところ、
「金属切削加工のRFQに必要なキーワードが足りない」というエラーが出て提出できなかったため、
検索して見つけた加工業者に見積もりを請求するのと同時に他の業者からも提案をもらうオプションを使った。

提出後すぐかなりの数の業者から連絡があり、「詳しい条件を教えて下さい」とalibaba上にメッセージが届くので
あらかじめ作っておいた条件をコピペしてファイルを送信した。

このとき送った条件は以下の通りだ。

  • 使いみち:電気製品の外装
  • 数量
  • 大きさ
  • 素材:アルミ 6061-T6か似たようなもの
  • 表面処理:ビーズブラスト(マット)+アルマイト
  • 色:アルマイト(クリア)
  • 表面処理のサンプル画像を送ってほしい
  • 3Dモデルを基準として、図面はネジの仕様と位置のリファレンスとしてだけ使って欲しい

値段が異様に安く表面処理をしない状態の見積もりを出してきたり、サンプル画像をくれない数社を省いて 、
金額が中間ぐらいかつ条件全てに何らかの返事をくれた業者に製造をお願いした。

とにかく決定する前の段階でコミュニケーションをしっかりとって確認することが重要だったように思う。
疑問に思ったところや怪しいところについて全て質問してクリアにする。
特に図面(と英語)が怪しいので思い通りのものが製造されるのかどうか、図をまじえて3日間ほどメッセージのやりとりをした。

製造前に最終的な見積もりをもらい、支払いをする。このときAlibaba経由のクレカ決済ができず、paypal経由で支払いをお願いした。
paypal経由だとalibabaの保証が効かず、paypal側もalibabaだと補償しないみたいな記事もみたのでオススメしない。

支払い後は加工が終わるのを待つ。たまに進捗画像が送られてくるし、連絡すればどんな感じかすぐ教えてくれるので安心。

発送時になかなか追跡番号をくれない(中間業者から連絡がなかった?)みたいなトラブルはありつつも無事到着。
段ボールをあけると個別に緩衝材でぐるぐる巻きにされた状態で入っていて輸送時の傷や破損はなかったようだ。

チェックのため1台は完全に組み立てる。問題なし。
ノギスなどで寸法の確認をしたところ、精度はほぼ図面通りに出ていることが確認できた。
表面処理については多少の粗や傷があるが概ね問題なし。

販売用に梱包を開けて検品。傷が外側で目立つものや角の処理が甘いものを省く。
ほぼ全数がQC Passだったように思うがちょっと厳し目にしておいた。
余ったものは表面処理のやり直しを国内でお願いしようと考えている。

まとめ

肝心な設計の部分や最も難しい図面の書き方について全く触れていないただの日記でしかないが、最後にいくつか海外に何かを発注する心構えをまとめておきたい。

問題は全て解決してから支払いをする(製造に入る)

しつこいぐらいに何度も確認すること。全てを文章にしておけばあとから揉めてもそれなりに安心だし、製造前であれば何をやっても無料。(時間はかかる)
支払い後すぐに製造準備に入る場合が多く、その段階で何も変更できなくなるので、支払いを済ませる前に解決する。

こちら側だけでなく工場側から曖昧になっているところをなくすのがお互い幸せになるコツ。

発送時のインボイスは正しい金額を書いてもらう

何も言わないと低い金額を書いてくれるので、送ってもらう前に確認する。脱税は面倒なことになるらしいぞ!

納期は余裕を

数量が少なかったためか製造の遅れはなかったが、発送後に予定よりも遅れた。独身の日周りなど発送が混雑するときは特に注意。

最後に

来年は自分が今とりかかっているLainのGBや新しいキーボードを楽しく開発していけるだけでなく、
ここ数年よく考えている「1台作る技術と25台作る技術と100台作る技術」について考察を深めてコミュニティに還元できるよう活動していきたい。

良いお年を。

2019/12/15 hsgw
この記事はLainで書きました。(1月中には価格を決めてGBはじめたい)